朝三暮四とDCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)

漢文の授業では、朝三暮四(ちょうさんぼし)と云うのを習う。

飼い主が、猿に向かって「ここに実が7個ある。朝に3個、夕方に4個あげよう。」と言ったところ、猿はえらく怒った。そこで飼い主が「では、朝に4個、夕方に3個あげよう。」と言うと、猿はえらく喜んだ。と云った具合の内容だ。

転じて、「本質を見抜けない、ぬか喜びの判断」と云った意味で使われることも多い。

ファイナンスの授業では、DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)と云うのを習う。

仮に金利が年10%のとき、今もらう10.000円と1年後にもらう10,000円、どちらのほうが価値が高いか。10,000円を今もらえば、1年間で10%の金利が付くが、1年後にもらう10,000円には、1年間分の金利が付かない。

DCFでは、1年後にもらう10,000円を、現在の価値で考える際、10,000円を110%で割ってあげて、9,090円の価値と見る。故に、今もらう10,000円のほうが価値が高い。と云った具合の内容だ。

企業買収や設備投資の意思決定ツールに使われることも多い。

話を猿に戻そう。仮に、ある日の猿には昼に肉体労働が待っており、朝に食べる実のほうが、夕方に食べる実よりも50%価値が高いとする。

朝の時点で7個の実の全体価値をDCFで計算すると「朝に3個、夕方に4個の場合」は3+4割る150%で計【5.66個】。「朝に4個、夕方に3個の場合」は4+3割る150%で計【6個】となり、朝に4個もらうほうが、全体価値は高くなる。与件があるだけで、猿は極めて合理的な意思決定をしていたことになる。

モノが一時的に不足している。今もらえるトイレットペーパーと1週間後にもらえるトイレットペーパー。どちらに価値があるかは猿にでも分かる。トイレットペーパーに対し、今日代金を払って、今日の引き渡しなら800円、一週間後の引き渡しなら400円と云った取引を実現出来ないものだろうか。空になった棚を見るたびに、漢文の篠田雅雄先生の名授業を思い出すのだ。