昔、渋谷東急ハンズ前の坂はちょっとしたバイクのショーケースだった。誰かが言うこともなく、皆が整然と斜めにバイクを停めていく。夕方ともなれば坂の上までぎっしりとバイクが並んでいたものだった。そして、この坂で目立ち始めた車種は面白いほどその後流行するものだった。
坂の途中に渋谷区役所に通じる小道がある。当時スーパーカブに乗っていた僕はその小道から出てきたバイクとそのライダーのかっこよさに度肝を抜かれた。ヤマハのセローをベースにしたそのカスタム車のガソリンタンクには、はっきりと”Brian Curtis”の文字が入っていた。ライダーの頭には高嶺の花のBELL製ジェットヘル。オフロード車にオンロードのタイヤを履かせるのがまだ一般的ではなかった時代に明らかに一歩先を行っていたバイクとライダーがそこにいた。
Brian Curtis (ブライアンカーチス)。あのミッキー・カーチスが目黒の大鳥神社でバイク屋を経営しているというのは何人かから聞いたが、結局一度も行かないまま閉店してしまっていた。あのセローは今、どこにあるのだろう。東急ハンズ前の坂を通る度に思い出す。
※ 写真は1998年から2002年まで乗っていたHONDA CRM80
前後のフェンダーを短くして、フロントにはオンロードのタイヤを履かせていた。
軽量で2ストローク、見事な加速で高円寺から下北沢までを毎日走っていた。