音のいい店


今の会社には朝礼というものがあり、毎朝、2人ずつ5分程度のスピーチをすることになっている。示唆に富む内容にするのか、ユーモアでクスっと笑ってもらうのを狙うか、毎回悩むのだが、うまくいった試しは殆どない。

そのときのお題は「マイブーム」だった。悩んだ末、「夕方のドトール」にした。移動の合間に空き時間が出来るとドトールでメールを見たりする機会が多いのだが、その日の夕方は耳を疑った。流れてきたのは二十数年振りに聴く曲で題名すら忘れていた曲だった。道玄坂のジュークボックスのあるバーでアルバイトしていたときに、ごくたまにかかっていたボズ・スキャッグスのシングルレコードのB面の曲だった。なんでそんな曲が突然かかったのか調べてみると、ドトールにはUSENと共同で作った選曲チームがあることが分かった。

思えば、音がいい店が好きな気がする。カフェなら神宮前のJ-Cook、バーなら恵比寿のTRACKや五本木の53263あたりが好きなのだが、音がいいからだと気が付いた。

自分の音のいい店の源流は渋谷のファイヤー通りにあるWONDER BOWL
(ワンダーボウル)だったかも知れない。自分が20歳の頃、店長はイチローさんという人だった。確か、当時28歳ぐらいだったと思う。彼はウッドベースを弾くミュージシャンでもあり、当時の自分には新鮮な曲ばかりかかっていた。アートブレイキーやジミー・スミスを聴くようになったのも彼の影響だった。

イチローさんはウルトラマン好きの料理上手でもあった。当時のメニューにはウルトラマン関連の名前のついたメニューがあり、中でもウルトラマンカレーは秀逸だった。コーヒーを淹れ方や軍モノのセーターが温かいことを教えてくれたのもイチローさんだった。

ある日、珍しいことにイチローさんは夕食に誘ってくれた。付いていくと道玄坂にある麗郷でご馳走してくれた。教えてくれたシジミのニンニク炒めはえらく旨かった。それからしばらくして、イチローさんはいなくなった。ウルトラマンカレーは今、どこにあるのだろう。