安田兄弟:AI小説


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東急東横線、学芸大学の駅から少し離れたところにあるコンビニには安田兄弟という、兄弟のアルバイト店員がいた。コンビニで兄弟がアルバイトをしていることは特に珍しいことではないが、安田兄弟の違うところは、大の競馬好きということだった。

安田兄弟は競馬新聞を買い求める客に対し、馬券の調子や客の立てた予想を聞いていたが、学校を卒業してからは、自分たちの予想も話すようになっていた。安田兄弟の予想は市井の予想より、はるかによく当たるということに気づいた客は、週末になると競馬新聞を買うためと云うよりも、安田兄弟の予想を訊くために、コンビニに行くようになっていった。週末のコンビニはとても繁盛した。

やがて、安田兄弟が揃ってコンビニを辞めることになったとき、コンビニのオーナーは、週末の売上対策を真剣に考えなければいけないほど、安田兄弟の存在は大きくなっていた。オーナーは安田兄弟に高給とともに社員になることを持ちかけたが、安田兄弟は「やりたいことがありますから」と固辞した。オーナーは諦めざるを得なかった。

オーナーには、競馬の知識はあったものの、安田兄弟のような予想が出来る筈もなく、本人も再現できるとは、皆目、思っていなかった。考えた結果、予想業務をAIに任せ、接客は対話型ロボットに任せてみることにした。AIのソフトウエアは知り合いの経営するソフトウエア会社、ホースレース・ストラクチャ―社に発注し、ロボットは既製品を活用した。そして、完成品を対話型ロボットとして、コンビニのレジ横に置いたのであった。その名を「学大アンドロイド」と名付けた。

安田兄弟時代からの常連客は当初、戸惑った。当たり前のことである、兄弟がいなくなりロボットがいるのだから。だが、常連の一人が学大アンドロイドに話しかけ、その日のメインレースの予想を聞いた。予想は見事に的中した。次週も同じ客が話しかけ、また的中した。学大アンドロイドは次第に安田兄弟の時代よりも高い的中率を叩きだすようになり、週末のレジには常に行列が出来るようになっていった。そして、半年もすると、5レースの1着馬を全て当てるWin5(ウイン・ファイブ)の当選者の多くがそのコンビニの客となり、高配当で魅力だったWin5の配当が一桁倍になるときすらあった。

コンビニのオーナーは今でこそ柔和な顔をしているが、オーナーになる前はパチプロだった。それもゴト師と言われる、パチンコ台へ細工をしたり、特殊な器具を利用して大量の出玉を獲得する、所謂イカサマ師だったのだ。そのことは安田兄弟にも言ったことはなかった。オーナーは考えた。「もしここで、学大アンドロイドに搭載しているAIに細工をして、Win5で逆張りすれば、大儲けできる。」

機は熟した。前週は大雨が降り、流石のAIも予想に歯が立たず、Win5で当たりが一人出ていない、キャリーオーバーという状態になっていた。キャリーオーバーで積みあがった額は数億円に上っていた。そして、その日は秋晴れで、風も弱く、絶好の競馬日和だった。実際、ここまでのレースは全て順当に収まっていた。

オーナーは前日からAIに細工をして、Win5の最後のレースだけ、勝ち馬と二着馬を入れ替えた予想を学大アンドロイドにさせた。狙ったとおり、コンビニの客は全員二着馬の馬券を買っていった。コンビニの客の中には学大アンドロイドの予想について、SNSを使って勝手に拡散する者もおり、その日のWin5も、売れている馬券は、ほぼ学大アンドロイドが立てた予想になっていた。

Win5のレースは1レース目から4レース目まで、順調に的中していった。そして、最後の5レース目を迎えた。

5レース目は東京競馬場の芝2000メートルのコースである。今でこそ幾分マシになったが、枠順での優劣があるコースである。学大アンドロイドは内枠の馬が勝つと予想していたが、オーナーは外枠に入った実績馬と入れ替えたのである。これなら、千に一つの波乱があっても仕方ないと思わざるを得ない。

赤い旗を持ったスターターが台に登り、各馬がゲートに入った。ゲート入りは極めてスムーズに進み、レースがスタートした。出遅れる馬は一頭もおらず、順調な展開でレースは進んだ。

二着馬になる馬が先頭となって、最終コーナーを回ってきた。東京競馬場の直線は500メートルもあるが、ほとんどの観客は二着馬になる馬の馬券を買っているため、とんでもない歓声が上がっていた。そして、皆、そのままゴールすると信じて疑わなかった。

異変が起きたのは、残り200メートルのところだった。先頭を走っている二着馬になる馬が突然失速したのだった。当たり前である。AIでは二着になる予定の馬なのだから。競馬場内は騒然とした。

失速した馬の代わりに内側から上がってきたのは、オーナーが馬券を買っていた馬だった。極度の緊張感と恍惚でオーナーの顔は真っ赤になっていた。

残り100メートルになったとき、さらに異変が起きた。大外(おおそと)からもう一頭、別の馬がもの凄い勢いで上がってきた。こともあろうに、その馬は一着馬になる予定の馬も追い越してしまった。そして、そのままゴールした。競馬場内は、さらに騒然とした。

こんなこともあろうかとオーナーは気を取り直そうとしていた。再びキャリーオーバーになれば、また来週チャレンジすればいいと。だが、レース確定の赤ランプが点灯するとともに、馬券を的中している者がいることが分かった。配当は数十億円という見たこともない高額な配当になっていたが、当日に払い戻す者はいなかった。当然、当たり馬券を持っている者が誰であるか、競馬ファンのみならず、マスコミも騒ぎだした。

翌日からマスコミはあらゆる払い戻し窓口に張り付いた。その様子はテレビのワイドショーで放映されていた。オーナーがテレビを見ていると、カメラは配当金を受け取った足で空港に向かっている人物たちを追いかけているところだった。よく見ると、テレビに映っていたのは、安田兄弟だった。安田兄弟はコンビニを辞めたあと、ホースレース・ストラクチャ―社のプログラマーとなっていたのだった。

– この物語はフィクションです

中華料理店店主・真部:経済小説」に続く